そうじゃない。

あなたは男に、そう告げた。

  • ???
    ……そうか。
    じゃあ、何が引っかかってるか、当ててやろうか。

    ……戦争だ。あんたは、戦争が嫌なんだ。

    本当にこれが世界の為なら、こんな訓練造作もないと、そう思ってんだろ?
  • ???
    あんたは自分の足で此処に来たかもしれないが、
    テメエではじめた戦争じゃないものな。
    何故戦わなきゃならないのか、大義名分が欲しいんだろう。

男はいつの間にか、見たこともないような道を通りながらあなたを先導していた。
外の吹雪の勢いは増してゆき、がたがたと窓を揺らした。

  • ???
    まず端的に、答えを教えてやる。なぜこの国は戦わなきゃならないのか?
    それは知っての通り、各地に散らばる支配の聖杯があるからだ。
    それを手にしたものは無条件でその地をひれ伏させる事ができる神具。
  • ???
    ……そんなもんを奪い合ってんだ。
    奪ったり奪い返したりしているうちに、いつかはどうせ魔術行使になる。
    神の目にも明らかな勝利と敗北がなけりゃ、誰も納得しやしないのさ。
  • ???
    それからな、戦争にだって道徳があるって言ったらあんたは驚くか?
    国家間で取り決めるまでもなく、
    暗殺や一般市民への手出しはできないようになってる。
    この大陸を統べる神が、天罰を下されるからだ。
  • ???
    それとも、あいつらが住んでた土地を蹂躙する事はないと言いたいか?
    だけどな、この帝国さえ戦いなくしては生まれ得なかった。
    俺たちははじめから屍の上に生かされている。
    追いやられた先住民、今まさに消えかけている少数民族達のな。
  • ???
    ある人が言ってた。
    戦いってのは敵を最後の一人まで殺すことじゃない。
    戦いの目的は、相手に要求を受け入れさせることだ。
    ”大切なものを守る為の聖戦”なんて綺麗ごとでもない事は、確かだけどな。
  • ???
    ……お偉い方にとっちゃ、そんなもの履き違えさせて
    殺戮兵器になってもらった方が都合が良いんだろうけどな。
    長く上にいりゃ、感覚も麻痺してくるし……
    逆に言や、それだけ焦る理由を知っているって事だ。

人気のない貯蔵庫に至ると、男は背を向けて続ける。

  • ???
    戦争の殆どは経済的問題によって起こりうる。
    限られた資源、宗教的なしがらみ……色々あるが……
    アンタが知っている情報に加えて、
    ここで俺に納得のいく理由を話してほしいと期待しているのなら
    榮郷へ行くのは辞めておけ。
  • ???
    俺がそれらしい事を言ってみせるのはそう難しくない。
    だがな……
    あえて誠実に言ってやるとするならば、
    俺が知っている情報とて全てが本当かどうかは解らないんだ。
    お偉方の認識も、至尊様のお考えと合致しているとは限らない。
  • ???
    ただ一つ解っていることは、戦争は既に始まっているということだ。
    各国が示し合わせたように、一斉に振り上げた手を降ろす事など出来ない。
    攻めなければ攻められる。状況は刻一刻と悪くなり、やがて国はなくなる。
    ヴルズアのようにな。
  • ???
    お前が戦わなくても誰かが戦う事に変わりはないんだ。

    嫌なら辞めればいいさ。誰かを殺めるくらいならと首をくくる自由だってある。

そう言い放った男の目は、何故かひどく悲しそうだった。

  • ???
    士気を乱さぬために、平和の為に戦うとあえて宣言するのもいいだろう
    だがな、何も考えずにお国の為にと名誉の殉死に急ぐ脳足りんなど居ない。
    それぞれが考え抜いた末の選択なんだ。
    これが徴兵なら、そう思わなければやっていられないのかもしれないがな……
  • ???
    それに、武功を上げなきゃお偉方と交渉をする機会すら与えては貰えない。
    手を汚さずに上り詰められるつもりなら、やってみな……本気で言ってるぜ。
    あんたが戦争のあり方を変えられるかもしれない。
  • ???
    それが解らないのなら、今此処で引き返せ。
    他の者の覚悟を侮辱する事になる前に。

男はあなたの顔をじっと見つめる。
訓練開始のベルが、けたたましく響きはじめた。